【大馬神社】狛犬がいない理由とは?鬼ヶ城の「鬼」多娥丸が眠る静寂の聖地

三重県
この記事は約4分で読めます。

鬼ヶ城の荒々しい岩壁と、轟音を立てる熊野灘。 その動的なエネルギーとは対照的に、熊野市の山奥深く、時が止まったような静寂に包まれた神社があります。

それが、「大馬神社(おおまじんじゃ)」です。

観光客で賑わう海岸沿いから車でわずか15分ほど。しかし、そこには俗世とは切り離された「隠れ里」のような空気が漂っています。

実はこの神社、鬼ヶ城の伝説と切っても切り離せない深い関係があるのです。 今回は、鬼ヶ城で討たれた「鬼」が眠る場所、そして「狛犬がいない」という不思議な神社の謎を紐解きます。


なぜ「狛犬」がいないのか?

杉の巨木に囲まれた鳥居をくぐり、美しい苔に覆われた石段を登ると、厳かな社殿が姿を現します。 しかし、ふと違和感を覚えるはずです。

「狛犬(こまいぬ)がいない……?」

神域を守るはずの狛犬の姿が、どこにも見当たらないのです。 実は、大馬神社の狛犬は、境内には存在しません。ここから直線距離で約2kmも離れた海岸にある「巨岩」が、この神社の狛犬なのです。

世界遺産「獅子岩(ししいわ)」です。

高さ25メートル、海に向かって咆哮する獅子の姿をした岩こそが、山奥にある大馬神社の守り神(狛犬)とされているのです。 「阿吽(あうん)」の対ではなく、一頭だけで守るというのも珍しいですが、何より2kmもの距離を超えて、海と山が「神域」として繋がっているスケールの大きさに圧倒されます。

これは、社殿が建てられるよりも遥か昔、自然そのものを神として崇めた熊野の古い信仰の形を今に伝えていると言えるでしょう。

世界一巨大な狛犬?「獅子岩」が吠える相手とは

七里御浜にそびえ立つ高さ約25mの巨岩。 まるで海に向かって大きく口を開け、咆哮しているようなその姿は、まさに巨大な獅子そのものです。

既にご紹介した通り、この岩は大馬神社の「狛犬」とされています。しかし、ここで一つの疑問が湧きませんか?

「なぜ、獅子は海に向かって吠えているのか?」

一般的な解釈では、海からの災厄を防いでいるとされます。 しかし、この地に伝わる「鬼ヶ城の多娥丸伝説」を知ると、もう一つの切ない物語が見えてきます。

大馬神社に眠るのは、かつてこの海を支配し、朝廷軍に討たれた海賊・多娥丸です。 もしかすると、この獅子は、非業の死を遂げた主(あるじ)・多娥丸の無念を晴らすため、敵がやってきた「海」に向かって今も威嚇し続けているのかもしれません。


敗者・多娥丸の鎮魂

大馬神社を訪れるもう一つの大きな理由。 それは、ここが鬼ヶ城の主であった海賊・多娥丸(たがまる)の終焉の地と伝わっているからです。

坂上田村麻呂によって討たれた多娥丸。 朝廷からは「鬼」と呼ばれ、恐れられた彼ですが、その首はこの大馬神社の境内に埋葬されたと言われています。

なぜ、神聖な神社の境内に「鬼」を埋めたのでしょうか?

一般的には、強い怨念を持つ多娥丸の祟りを封じるためと考えられます。 しかし、地元には「多娥丸は仲間思いで、人々に慕われていた」という伝承も残っています。そう考えると、これは単なる封印ではなく、無念の死を遂げた地元の英雄を、神のそばで安らかに眠らせてあげたいという、里人たちの「鎮魂(ちんこん)」と「敬愛」の証だったのかもしれません。

境内を包む深い静寂の中に身を置くと、荒波の鬼ヶ城で散った彼の魂が、ようやくここで安息を得ているような、そんな切ない感情が込み上げてきます。

海と山、物語を完結させる旅

  1. 鬼ヶ城で、多娥丸が生きた証と戦いの舞台を見る。
  2. 獅子岩で、大馬神社を守り続ける狛犬の姿を見上げる。
  3. 大馬神社で、多娥丸の魂に静かに手を合わせる。

この3箇所を巡ることで、熊野に伝わる一つの壮大な物語が完結します。 華やかな世界遺産巡りとは一味違う、歴史の深層に触れる旅。静寂の聖地・大馬神社へ、ぜひ足を運んでみてください。


マップ・基本情報

大馬神社

多娥丸の城・鬼ヶ城
鬼に関する記事

コメント

タイトルとURLをコピーしました