【南宮大社】関ヶ原で焼失した鉄の神!金山彦命の正体と徳川の再建劇

岐阜県
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天下分け目の決戦の地「関ヶ原」にほど近いこの場所に、全国の鉱山・金属業の総本宮として崇敬を集める古社が鎮座しています。 美濃国一宮、南宮大社(なんぐうたいしゃ)

広大な境内に一歩足を踏み入れると、目に飛び込んでくるのは鮮やかな「朱色」の社殿群。 実はこの神社、かつて関ヶ原の戦いの激戦に巻き込まれ、全焼したという壮絶な過去を持っています。

今回は、徳川家光が威信をかけて再建した「国家プロジェクト」の全貌と、そこに祀られる「イザナミの嘔吐物から生まれた」とされる神様の正体に迫ります。


関ヶ原の戦いで灰燼に帰した「南宮」の悲劇

南宮大社の歴史は古く、社伝によれば神武天皇即位の年に創建されたと伝わります。もともとは背後にそびえる南宮山の山頂に祀られていましたが、崇神天皇の御代に現在の山麓へと遷座されました。

歴史好きにとって見逃せないのが、慶長5年(1600年)の「関ヶ原の戦い」との関わりです。 南宮山の山頂付近には、西軍の毛利秀元吉川広家らが陣を敷きました(世に言う「宰相殿の空弁当」の舞台です)。 南宮大社はこの激戦の最前線となり、兵火に巻き込まれて社殿はことごとく焼失。一時は完全に灰燼に帰してしまいました。

徳川家光と春日局による「国家プロジェクト」

しかし、ここから劇的な復興を遂げます。 焼失から42年後の寛永19年(1642年)、徳川3代将軍・家光公の手によって再建されたのです。この再建には、美濃国ゆかりの春日局の強い願いがあったと伝えられています。

再建費用は現在の価値にして約21億円。徳川幕府の威信をかけた大事業により、現在に残る壮麗な社殿群が完成しました。


主祭神・金山彦命の正体

南宮大社を「金属の総本宮」たらしめているのが、主祭神の金山彦命(カナヤマヒコノミコト)です。 実はこの神様、日本神話の中でも屈指の「壮絶な生まれ方」をした神様であることをご存知でしょうか?

衝撃!イザナミの「嘔吐物」から誕生

金山彦命が誕生したのは、国生み神話のクライマックス、そして悲劇の始まりの場面です。 母神イザナミは、火の神「カグツチ」を産んだことで陰部に大火傷を負い、病の床に伏してしまいます。苦しむイザナミの口から吐き出された嘔吐物(たぐり)。そこから化生したのが、金山彦命と、対となる金山姫命でした。

「なぜ嘔吐物なのか?」 現代の感覚では驚いてしまいますが、これは古代の製鉄現場(タタラ)のリアリズムを表現しています。 炉の中でドロドロに溶けた鉄(鉱石)が、真っ赤な液体となって流れ出る様子。それはまさに、大地の女神が熱にうなされて吐き出す「マグマ」や「吐瀉物」そのものだったのです。

つまり金山彦命は、「火(カグツチ)によって母なる大地(イザナミ)が焼かれ、そこから金属(カナヤマヒコ)が流れ出る」という、製鉄のプロセスそのものを神格化した存在なのです。

「金」はゴールドにあらず

「金山彦」という名前から「黄金(ゴールド)」を連想しがちですが、古代における「金(かね)」は、金属全般(特に鉄や銅)を指します。 彼は、農具や武器を作るための「鉄」という、国家の存亡に関わる最重要戦略物資を司る、日本の産業革命の象徴とも言える神様なのです。


「一つ目の神」天目一箇神との関係

南宮大社を語る上で欠かせないのが、もう一柱の重要な神、「天目一箇神(アメノマヒトツノカミ)」の影です。

天目一箇神は「鍛冶の神」であり、その名の通り「片目」の神様です。 これは古代の鍛冶師が、溶鉄の色を見極めるために片目をつぶっていた職業的癖、あるいは炉の熱や事故で実際に片目を失明することが多かったことの神格化と言われています。

南宮大社周辺の伝承では、「私は金山彦天目一箇神ともいう金屋子神(カナヤゴカミ)であると神が名乗ったという話も残っています。 つまりここでは、以下のように神々が習合し、強力な「鉄の神」として信仰されています。

  • 金山彦命: 鉱山・原料の神(嘔吐物から生まれたマグマの神)
  • 天目一箇神: 鍛冶・技術の神(片目の職人神)

現代でも、11月8日の「金山祭(ふいご祭り)」には、トヨタ自動車や日本製鉄など日本を代表する企業がこぞって参拝し、この強力なタッグの神々に技術の向上と安全を祈願しています。


建築美「南宮造」と重要文化財

歴史と神話の背景を知った上で見る社殿は、また格別です。 境内には、本殿、拝殿、楼門など18棟もの国指定重要文化財が並びます。これらはすべて家光公の再建によるもので、「南宮造(なんぐうづくり)」と呼ばれる独特の建築様式です。

  • 鮮やかな朱塗り(丹塗り): 金属精錬に不可欠な「火」を象徴する色であり、魔除けの意味も持ちます。
  • 配置の妙: 楼門から高舞殿、拝殿、本殿までが一直線に並び、楼門越しに本殿から昇る日の出を拝むことができる設計になっています。

石鳥居と「黄金の土俵」伝説

参拝時にぜひ注目してほしいのが、入り口の石鳥居(重文)です。 この巨大な石の笠木を持ち上げる際、工事の責任者は土を盛り上げて坂を作りました。その際、人々に労役を厭わせないよう、「盛り上げた土の中に小判を混ぜた」という噂を流したそうです。 おかげで、工事が終わると人々は我先にと土を崩して持ち去り、あっという間に土山はなくなったとか。徳川の財力と、民衆操縦の巧みさを物語るエピソードです。


現代におけるご利益 金運と悪縁切り

もともとは「鉄・鉱業」の神様ですが、現代ではその解釈が広がり、ご利益もパワーアップしています。

  • 金運・財運向上: 「金(かね)」=「お金」に通じることから。京都の「御金神社」も金山彦命を祀っており、金運の神として絶大な人気を誇ります。
  • 交通安全: 自動車(金属の塊)の守護神として。
  • 悪縁切り・開運: 刃物(鉄)の神様であることから、悪い縁をスパッと断ち切る力があるとも言われています。

南宮大社へのアクセス・基本情報

  • 名称: 南宮大社
  • 住所: 〒503-2124 岐阜県不破郡垂井町宮代1734-1
  • グーグルマップの位置情報
  • 拝観時間: 境内自由(授与所 9:00~16:30)
  • アクセス:
    • 電車: JR東海道本線「垂井駅」より徒歩約20分(タクシー約5分)
    • 車: 名神高速道路「関ヶ原IC」より約10分。無料駐車場あり(約100台)。
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