【美保神社】『古事記』国譲りの謎に迫る!出雲大社との両参りでご利益倍増?

島根県

『古事記』のクライマックス、国譲り神話。高天原の神々が、大国主神(おおくにぬしのかみ)が治める豊葦原中津国(とよあしはらのなかつくに)を天孫に譲るよう迫る、日本神話の根幹をなす物語です。

この国家の運命を左右する交渉の最終決定が、実は出雲の中心地ではなく、島根半島の東端、美保の岬で下されたことをご存知でしょうか?

その舞台こそが、全国に3,385社以上あるえびす社の総本宮、美保神社です 。

今回は、単なるパワースポット紹介では終わらない、美保神社ガイドです。事代主神(ことしろぬしのかみ)の謎に満ちた決断、現代に生きる神話の儀式、そして父・大国主神が鎮座する出雲大社との深いつながりまで、徹底的に掘り下げていきましょう。

国譲りの鍵を握る神、事代主神の「平和的決断」

物語は、天照大御神(あまてらすおおみかみ)の使者・建御雷神(たけみかづち)稲佐の浜に降り立ち、大国主神に国譲りを迫る場面から始まります 。しかし大国主神は、即答を避け、こう言います。  

「私の一存では決められない。息子の事代主神が答えるだろう。彼は今、美保の岬で鳥や魚を獲っている」。  

国家の未来を決めるという重責を、父は子に委ねたのです。使者が美保の岬へ向かうと、事代主神は釣りをしていました 。国譲りの可否を問われた彼は、争うことなくあっさりと承諾します 。  

しかし、彼のその後の行動は謎に満ちています。乗っていた船を傾けて踏みつけ、「天の逆手(あまのさかて)」と呼ばれる呪術的な拍手を打つと、青々とした柴で垣根を作り、その中へ姿を隠してしまったのです 。  

これは単なる服従や逃亡ではありません。この行為は、現世(うつしよ)の統治権を天孫に譲り、自らは神々の世界である幽世(かくりよ)へ退くという、儀式的な「死と再生」のプロセスだったと解釈されています 。この平和的な決断により、事代主神は「福徳円満」の神となり 、この時に打たれた「天の逆手」は、現代の商談成立時に行われる「手締め」や「手打ち」の起源になったとも言われています 。  

神話は終わらない。現代に蘇る二大神事

美保神社では、この国譲り神話の場面が、今なお二つの荘厳な神事として、毎年古式に則って斎行されています。これこそ、神話が現代に生きている証です。

青柴垣神事(あおふしがきしんじ) – 毎年4月7日

事代主神が国譲りを承諾し、青い柴の垣根に身を隠した故事を再現する、神秘的な神事です 。一年神主である「当屋(とうや)」は、厳しい潔斎を経て神がかり的な状態で儀式に臨みます 。青柴垣で飾られた二艘の船が港を巡る光景は、まさに神話のワンシーン。船中で当屋は事代主神そのものとなり、神の霊威が年に一度、新たにされるのです 。  

諸手船神事(もろたぶねしんじ) – 毎年12月3日

国譲りの可否を問うため、天つ神の使者が二艘の「諸手船(もろたぶね)」に乗って到来した場面を再現する、勇壮な神事です 。白装束の氏子たちが厳冬の海で互いに水を掛け合いながら漕ぎ競う姿は、神話の緊張感を今に伝えます 。この神事で使われる諸手船は、古代の造船技術を伝える貴重な資料として、国の重要有形民俗文化財にも指定されています 。

「大社だけでは片参り」出雲大社との”両参り”でご利益を最大に

美保神社を語る上で欠かせないのが、出雲大社との関係です。出雲大社の御祭神・大国主神(だいこく様)と、美保神社の御祭神・事代主神(えびす様)は、父と子の関係にあります 。  

このことから、古くから「大社だけでは片参り」と言われ、両方の神社を参拝する「えびすだいこく両参り」によって、より強いご縁を結べると信じられてきました 。特に縁結びのご利益がアップすると言われ、多くの人が両社を訪れます 。  

参拝の順序は、まず親である出雲大社のだいこく様を参拝し、次に子のえびす様が祀られる美保神社を訪れるのが良いとされています 。  

神話と信仰を映す建築美「美保造」

美保神社の社殿は、その信仰を見事に体現しています。国の重要文化財に指定されている本殿は、「美保造(みほづくり)」または「比翼大社造(ひよくたいしゃづくり)」と呼ばれる全国でも類を見ない特殊な様式です 。

これは、出雲大社と同じ大社造の社殿を二棟並べ、中央で連結した形 。向かって右に母である三穂津姫命(みほつひめのみこと)、左に子の事代主神を祀っており、二柱の神を同格に祀るという神社のあり方そのものを建築で表現しているのです 。  

また、壁のない開放的な拝殿は、港町の舟小屋を模したもので、音曲を好むえびす様への音楽奉納に最適な音響効果を生み出しています 。  

美保神社へのアクセスと地図情報

神話の舞台へ、いざ出発しましょう。

車をご利用の場合

高速道路を利用して、山陰自動車道の米子西ICまたは米子中ICからアクセスするのが一般的です。

  • ルート例(神戸方面から)
    • ルート: 中国自動車道 → 米子自動車道 → 山陰自動車道・米子西IC → 一般道
    • 所要時間: 約3時間半~4時間  
公共交通機関をご利用の場合

JR松江駅またはJR境港駅が起点となります。そこからバスに乗り換えます。

  • JR松江駅から
    • 一畑バス「美保関ターミナル」行きに乗車(約40分)。
    • 終点で美保関コミュニティバス「美保関線」に乗り換え、「美保神社入口」下車(約30分)。
  • JR境港駅から
    • 美保関コミュニティバス「美保関線」に乗車し、「美保神社入口」下車 。  

地図情報

  • 住所: 〒690-1501 島根県松江市美保関町美保関608 Googleマップ

さらに神話の世界へ!おすすめ参考文献

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  1. 『神話ゆかりの地をめぐる 古事記・日本書紀 探訪ガイド 新装改訂版』
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  2. 『読めば読むほど面白い『古事記』75の神社と神様の物語』由良 弥生 (著)
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