岐阜市の中心、柳ヶ瀬の喧騒のすぐそばに、ひと際異彩を放つ空間があります。 空を切り裂くようにそびえる、高さ8メートルの「黄金の鳥居」。
近年、メディアやSNSで「最強の金運パワースポット」として取り上げられ、毎月最終金曜日の「Premium 金 Day」には、限定の「金の御朱印」を求める参拝者が長蛇の列をなすことで有名です。
なぜ、この場所に「金(こがね)」の名が冠されたのか? なぜ、主祭神は「鉱山の男神」ではなく「皇族の女神」なのか?
その謎を紐解くと、ヤマト王権の東国進出、古代の製鉄技術者集団・物部氏の影、そして夫を失った悲しみから立ち上がり、国づくりに生涯を捧げた一人の女性のドラマが見えてきます。
今回は、華やかな黄金色の輝きに隠された、金神社(こがねじんじゃ)の深層へご案内します。
創建1900年 国府の鎮守と「物部氏」の謎
金神社の歴史は、社伝によれば成務天皇5年(西暦135年)にまで遡ります。
「金大神」を祀ったのは誰か?
当時、この美濃国の国造として赴任し、国府を定めたとされるのが物部臣賀夫城命(もののべおみかぶらのみこと)です。
「物部氏」は古代日本における軍事・祭祀、そして武器製造(金属製錬)を司った有力豪族です。 彼がこの地に赴任し、篤く「金大神」を祀ったという事実は、古代の岐阜周辺が軍事的に重要な拠点であり、かつ金属資源の管理や加工を行う「鉄と火の現場」であった可能性を強く示唆しています。
金神社の「金」とは、現代的な貨幣である以前に、古代国家を支えた鉄や銅の神聖な輝きを意味していたのです。
ご祭神・渟熨斗姫命 金運の正体は「慈愛と産業振興」

現在、金神社の主祭神として祀られているのは、渟熨斗姫命(ぬのしひめのみこと)です。 多くの金運神社が「金山彦命(金属神)」や「大黒天・恵比寿(商売神)」を主祭神とする中で、なぜ一人の女性が、それも皇族の女性が「財をもたらす神」として信仰されているのでしょうか?
夫の死と、美濃への下向
渟熨斗姫命は、第12代景行天皇の皇女であり、第11代垂仁天皇の皇子・五十瓊敷入彦命(いにしきいりひこのみこと)の妃です。
夫・五十瓊敷入彦命は、朝廷の命を受けて奥州平定などの軍功を挙げ、美濃の地を開拓しましたが、この地で非業の死を遂げたと伝えられています(一説には朝敵として討たれたとも、騙し討ちにあったとも言われます)。
夫の訃報を聞いた姫は、都から美濃へと下り、夫の御霊を慰めながらこの地で生涯を終えました。
「悲劇の未亡人」から「慈愛の統治者」へ
しかし、彼女は単に悲嘆に暮れていたわけではありません。 伝承によれば、姫は私財を投じて町を開拓し、治水や農業、産業の振興に尽力したといいます。地域住民を我が子のように慈しみ、その行政手腕によって現在の岐阜の経済的基盤が形成されました。
人々が彼女を「財をもたらす神」として崇めるようになったのは、魔法のように金銀を生み出したからではありません。 「私財を投げ打ってインフラを整え、産業を興し、民を豊かにした」という、偉大な実績が、神格化されたものなのです。
金神社の金運とは、ギャンブル的な運気ではなく、「慈愛を持って事業を成し遂げる力」そのものと言えるでしょう。
境内の考古学 華やかな鳥居の裏に眠る「古墳」
参拝の際、鮮やかな社殿と鳥居だけで満足して帰ってしまうのはあまりに惜しいことです。 ぜひ、社殿の裏手へと足を運んでみてください。そこには、1900年の時を刻む静寂な空間が広がっています。
賀夫良城(かぶらぎ)古墳
本殿の裏には、こんもりとした土の盛り上がりがあります。これは「賀夫良城古墳」と呼ばれる小円墳です。 創建者である物部臣賀夫城命の墓所、あるいは彼が祭祀を行った場所と伝えられており、こここそが金神社の信仰の原点(元宮)です。
出土した須恵器が語ること
さらに興味深いことに、この神社周辺からは大量の須恵器(すえき)の破片が出土しています。 須恵器は古墳時代に朝鮮半島から伝来した技術で作られた硬質の土器です。この大量出土は、古代のこの場所で大規模な祭祀が行われていたこと、そして大陸の技術を持った渡来系の人々がこの地域の発展に関わっていた可能性を示しています。
表の「黄金の鳥居」が現代の信仰のカタチなら、裏の「古墳と須恵器」は古代の信仰のリアルな痕跡です。
岐阜の聖地巡礼 「親子三社参り」のすすめ
岐阜市の信仰構造を理解する上で欠かせないのが、「親子三社(おやこさんじゃ)」という概念です。 金神社の渟熨斗姫命(母)を中心に、夫神と御子神を祀る三社が、岐阜市内で聖なるトライアングルを形成しています。
これらを巡ることで、家内安全・事業繁栄の完全なパワーをいただけるとされています。
- 【父】伊奈波神社(いなばじんじゃ)
- 祭神: 五十瓊敷入彦命(いにしきいりひこのみこと)
- 性格: 美濃国三宮。強力なパワーの源泉。水を制し、敵を平らげる「剛」の力。
- 場所: 金山(金華山とは別)の麓に鎮座する壮大な古社。
- 【母】金神社(こがねじんじゃ)
- 祭神: 渟熨斗姫命(ぬのしひめのみこと)
- 性格: 産業繁栄、財運招福、慈愛。「柔」の力で富を育む。
- 【子】橿森神社(かしもりじんじゃ)
- 祭神: 市隼雄命(いちはやおのみこと)
- 性格: 夫婦の御子神。子供の守護、学業成就。
夫の荒々しい開拓の力を、妻が慈愛で包み込み、子へと継承する。このストーリーを感じながら巡礼することで、岐阜という土地の歴史がより立体的に見えてきます。
【参拝データ】

- 鎮座地: 岐阜県岐阜市金町5-320
- グーグルマップの位置情報
- アクセス: JR・名鉄岐阜駅から徒歩約15分(柳ヶ瀬商店街近く)
- 駐車場: 隣接の「金公園地下駐車場」が便利
- 授与品: 「こがね守」など。毎月最終金曜日は御朱印の待ち時間に注意。






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