徳島県の山深き地、神山町。「神の山」という名を持つこの場所には、驚くべき伝承が眠っています。
今回ご紹介するのは、上一宮大粟神社の摂社「稲飯神社(いないじんじゃ)」。 ここには京都・太秦(うずまさ)にあるものと同じ「三柱鳥居」が存在し、さらに「亡くなったはずの神武天皇の兄が、実はここに漂着して生きていた」という伝説が語り継がれているのです。
日ユ同祖論や阿波古代史説の震源地とも噂される、このミステリアスな神社の正体に迫ります。
神山町に鎮座する「稲飯神社」とは?
徳島市内から車で西へ約50分。四国山地の深い緑に抱かれた神山町神領地区に、稲飯神社は鎮座しています。 この神社は、阿波国一宮である「上一宮大粟神社(かみいちのみやおおあわじんじゃ)」の摂社であり、その位置関係からも、この地域における重要な信仰拠点の一部であることがうかがえます。
- 鎮座地:徳島県名西郡神山町
- 本社:上一宮大粟神社(祭神:オオゲツヒメ)から徒歩約15分
- 特徴:全国的にも珍しい「三柱鳥居」と特異な伝承
記紀神話との矛盾!稲飯命「生存説」の衝撃

稲飯神社の祭神は、稲飯命(イナヒノミコト)。 彼は初代・神武天皇(カムヤマトイワレビコ)の兄にあたる人物です。
『古事記』や『日本書紀』といった公式の歴史書(正史)では、彼の最期はこう記されています。
神武東征の途中、海が荒れた際に「我が祖は海神なのになぜ阻むのか」と嘆き、剣を抜いて海に入り、神となって波を鎮めた。
つまり、「大和に辿り着く前に海で亡くなった」というのが定説です。
しかし、ここ神山町に伝わる話は全く異なります。 「稲飯命は死んでいない。荒波を乗り越えて阿波に漂着し、この地を開拓して余生を過ごした」 なんと、地元の伝承では彼は生存し、この地の開拓神となったとされているのです。稲飯神社は、その屋敷跡、あるいは墓所の上に建てられたと伝えられています。
もしこれが事実なら、神武東征のルートや目的、ひいては古代日本の歴史そのものの解釈が大きく変わってしまう可能性があります。
秦氏の影?ミステリーを呼ぶ「三柱鳥居」

稲飯神社を語る上で外せないのが、境内に立つ「三柱鳥居」の存在です。
通常の鳥居は2本の柱で構成されますが、これは3本の柱を正三角形に配置した極めて特異な形状。全国でも数例しかなく、最も有名なものは京都・太秦の「木嶋坐天照御魂神社(通称:蚕の社)」にあります。
- 京都・太秦:太秦は渡来系氏族「秦氏(はたうじ)」の拠点。
- 養蚕との関わり:本社の大粟神社の祭神オオゲツヒメは養蚕の起源神。秦氏もまた、養蚕技術を伝えた一族です。
この山深い神山町に、秦氏の象徴ともいえる鳥居があること。それは、古代においてこの地が高度な技術を持った渡来人グループの拠点であった可能性を強く示唆しています。
日ユ同祖論と歴史のロマン

さらに一説では、この三柱鳥居の形状から「日ユ同祖論(日本人と古代ユダヤ人は同祖であるとする説)」との関連も囁かれています。
- ダビデの星:三柱鳥居を上から見ると三角形。これに逆三角形を組み合わせると、ユダヤのシンボル「六芒星(ダビデの星)」が浮かび上がる。
- 古代文字:境内には、神代文字や古代ヘブライ文字に見える不思議な文字が刻まれた石柱があるとも言われています。
もちろんこれらは学術的な定説ではありません。しかし、「神山」という地名や、天皇家の紋章とユダヤの象徴の類似性など、想像力を掻き立てる材料には事欠きません。
阿波古代史という視点
徳島県には「阿波古代史説(阿波古事記説)」という独自の歴史解釈があります。「記紀神話の舞台は実は阿波だった」とする説です。 この説において、稲飯命が「阿波に帰還していた(漂着していた)」という伝承は、阿波こそが皇室のルーツであるとする重要な証拠の一つとして扱われています。
定説の歴史をなぞるだけでは見えてこない、もう一つの日本の姿。稲飯神社は、そんな「歴史の裏側」への入り口なのかもしれません。
神山町の奥深さに触れる旅へ
稲飯神社は、派手な観光地ではありません。しかし、そこには以下の重厚なレイヤーが重なり合っています。
- 神武天皇の兄・稲飯命の生存伝説
- 秦氏との繋がりを示す三柱鳥居
- 日ユ同祖論や阿波古代史説という歴史ミステリー
歴史の真実は一つではないのかもしれません。徳島を訪れた際は、ぜひ神山町まで足を延ばし、静寂の中に佇む三柱鳥居の前で、太古のロマンに想いを馳せてみてはいかがでしょうか。
アクセスと位置情報
稲飯神社は、観光地化された場所ではなく、静謐な山林の中にあります。本社である「上一宮大粟神社」からの徒歩移動が基本となります。

Googleマップ
車でお越しの方
徳島市内から国道438号線を西へ約50分。
- ルート: 徳島自動車道「徳島IC」または「藍住IC」から、国道438号線を神山方面へ。
- 駐車場: 稲飯神社には専用の駐車場はありません。道路脇に駐車できそうなスペースはあります。
- 推奨ルート: まずは「上一宮大粟神社」を目指してください。大粟神社の参拝者用駐車場(または周辺の駐車スペース)を利用し、そこから徒歩で向かうのが一般的です。
- 徒歩ルート: 大粟神社から約700m、徒歩15分〜20分ほどの山道(舗装路ですが細いです)を登ります。「神山温泉」からも車で5分ほどの距離です。
公共交通機関でお越しの方
徳島駅からバスでの移動となります。本数が限られているため、事前の時刻表確認が必須です。
- バス路線: 徳島バス「神山線(延命経由 または オロノ経由)」に乗車。
- 下車バス停: 「寄中(よりなか)」 または 「大宮橋」 バス停で下車。
- 徒歩: バス停から上一宮大粟神社まで徒歩約10分。そこからさらに稲飯神社まで徒歩約15分。
- タクシーを利用する場合、神山町内のタクシー会社は限られているため、神山温泉などで手配することをお勧めします。


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