石川県・能登半島。
この地を代表する神社といえば、縁結びで有名な一宮「気多大社(けたたいしゃ)」が有名ですが、実はそのすぐ近く、中能登町に「能登國二宮」と呼ばれる極めて重要な古社が鎮座しています。
その名は、天日陰比咩神社(あめのひかげひめじんじゃ)。
この神社、知れば知るほどミステリアスで面白いのです。
なんと「古代の女王が眠る古墳の上に創建された」という衝撃のルーツを持ち、現代では全国でも希少な「どぶろく特区」の中心として発酵文化を伝えています。
今回は、古代王権のロマンと、震災を超えて息づく祈りの現場、天日陰比咩神社の全貌に迫ります。
古墳の被葬者が「神」になった?衝撃のルーツ
拝殿の背後にそびえる眉丈山(びじょうざん)の雷ヶ峰。
実はこの神社の元宮は、この山頂にあります。そこにあるのは……「雨の宮古墳群」です。

考古学と伝承の一致
国の史跡「雨の宮古墳群」の1号墳(前方後方墳)は、4世紀中頃に築かれた北陸最大級の古墳です。
- 伝承: 祭神は「天日陰比咩神(女神)」と「伊須流岐比古神(男神)」の夫婦神(または姉弟)。
- 発掘事実: 1号墳の埋葬施設からは、男女二人の合葬が確認されている。

つまり、この神社は神話上の架空の存在ではなく、「古墳に眠る古代能登の女王(女性首長)とそのパートナー」を祖神として祀ったことが始まりである可能性が非常に高いのです。
かつて人々は、山頂の古墳に向かって、干ばつの際には雨を乞い、日照不足の際には太陽を願いました。
女神「天日陰比咩」の正体と、一宮との関係
社名になっている「天日陰比咩(あめひかげひめ)」とは、どのような神様なのでしょうか。
名前は「太陽」、役割は「水」
「天日陰(あめひかげ)」という名は、古語で「日の御陰(太陽の恩恵)」や「太陽の姿」を意味します。つまり、本来は太陽神の性格を持つ高貴な女神です。
現実の信仰では「雨乞いの神(水神)」として崇められてきました。「日照りを操る太陽の神だからこそ、雨も降らせることができる」という、古代人の切実な祈りが込められています。
能登を支える「父と母」のバランス
興味深いのが、能登一宮「気多大社」との対比です。
| 一宮:気多大社 | 二宮:天日陰比咩神社 | |
| 主祭神 | 大己貴命(男神) | 天日陰比咩神(女神) |
| 鎮座地 | 日本海沿い(海) | 山沿い・平野(山・水) |
| 性格 | 開拓・荒ぶるエネルギー | 豊穣・母性的な恵み |
海辺の男神と、山裾の女神。
能登国は、この二柱をセットで祀ることで、国土のバランス(陰陽)を保ってきたと言えます。「二宮」という称号は順位ではなく、一宮と対になる「母なる神」としての重要性を示しているのです。
アクロバティックすぎる!「加賀逆立ち狛犬」
歴史の重厚さとは裏腹に、境内には思わず二度見してしまうユニークな光景があります。拝殿前の狛犬です。
普通の「お座り」ポーズではありません。
口を開けた獅子が、後ろ足を高く蹴り上げ、まるでブレイクダンスの倒立のようなポーズを決めています。
これは「加賀逆立ち狛犬」と呼ばれる、金沢や能登地方特有の様式。
雲を蹴って空を飛ぶ躍動感を表現しており、雨を呼ぶ雷神や龍神のイメージとも重なります。今にも動き出しそうなその姿は必見です。
全国でも希少!神様のお酒「どぶろく」醸造
天日陰比咩神社のもう一つの顔、それは「お酒」です。
明治以降、日本では神社の酒造りが厳しく禁止されましたが、この神社は藩政期から続く由緒により、国税局から「どぶろく(濁酒)」の醸造許可を受けている全国でもわずか30数社の一つです。
「どぶろく特区」と復興への祈り
この伝統を活かし、現在の中能登町は国から「どぶろく特区」の認定を受けています。
神社の伝統が地域振興へと発展し、世界農業遺産「能登の里山里海」で育った米と水を使ったどぶろく作りが盛んです。
2024年の能登半島地震の際も、神社の祭りは絶えることなく、年末には「どぶろく祭り」の開催が告知されました。困難な時こそ神と人が盃を交わし、結束を強める。そんな古代からの習わしが、ここでは生きた形で受け継がれています。
【参拝ガイド】天日陰比咩神社と雨の宮古墳群

1. 天日陰比咩神社(二宮)
- 鎮座地: 石川県鹿島郡中能登町二宮子6(甲8)
- グーグルマップの位置情報
- アクセス: JR七尾線「能登二宮駅」より徒歩約25分(駐車場あり)
- 見どころ: 逆立ち狛犬、美しい苔とモミジの参道、御朱印。
2. 雨の宮古墳群(元宮・奥宮)
神社のルーツを感じたい方は、ぜひ車で背後の山へ。
- 場所: 神社から車で約15分。「雨の宮能登王墓の館」を目指してください。
- グーグルマップの位置情報
- 絶景: 能登最大級の古墳の上からは、七尾湾や立山連峰が一望できます。
- ⚠️注意: 12月~3月中旬頃までは、積雪のため冬季閉鎖となります。古墳見学は春~秋がおすすめです。


コメント