愛知県北西部、一宮市の中心部に鎮座する真清田神社。この神社の存在なくして、この地が「一宮市」という名を冠することはなかったでしょう。尾張国(愛知県西部)において最も格式の高い「一宮」として、古代から現代に至るまで、地域社会の政治、経済、文化の中心として強大な求心力を持ち続けてきました。
この記事では、真清田神社の壮大な歴史と神々の系譜、そして一宮市の基幹産業を支えてきた独自の信仰、戦災からの復興を経て文化財となった社殿の魅力まで、その全貌を深く掘り下げます。
尾張国一宮の歴史的地位 都市の名の由来
真清田神社は、平安時代の『延喜式神名帳』に「真墨田神社名神大」と記載された名神大社であり、古代の朝廷から特に厚く崇敬されてきた神社です。
その地位がどれほど強大であったかは、現代の地名に見て取れます。神社の鎮座地が「一宮市」という名称を持つのは、当社が尾張国一宮であったことに直接由来するのです。全国に「一宮」の地名はありますが、市制を敷く自治体は、この真清田神社が鎮座する一宮市のみです。
江戸時代には徳川幕府から朱印領333石が寄進され、尾張藩主の徳川義直による社殿の大修理も行われるなど、近世においてもその権威は揺るぎませんでした。戦災による焼失という大打撃を受けながらも、戦後、地域の篤い信仰により復興を果たし、現代も尾張全体から信仰を集める地域の「氏神」として機能し続けています。
祭神と信仰 尾張氏の祖神と「織姫」の系譜
主祭神 天火明命(あめのほあかりのみこと)

真清田神社の主祭神は、天火明命です。この神は高天原の神であり、父は天津彦彦火瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)、母は木之花咲耶姫命(コノハナサクヤヒメ)という、壮大な神話の系譜を持つ神です。
天火明命は、古代にこの尾張地方を治めた尾張氏の祖神として崇敬されており、その神徳は火や光を「照らす」ことに強いとされます。これにより、五穀豊穣、家内安全、開運厄除け、病気平癒など、広範な現世利益をもたらす神として信仰されています。
地域産業の柱 服織神社に宿る「織姫」信仰

真清田神社の信仰の核となるのが、境内摂社である服織神社(はとりじんじゃ)です。
服織神社が祀るのは、主祭神・天火明命の母神である萬幡豊秋津師比賣命(よろずはたあきつしひめのみこと)です。この神は別名を棚機姫神(たなばたひめのかみ)とも称され、まさに七夕伝説における「織姫」と同一視されています。
一宮市は古くから機織工業(繊維産業)が主軸を担ってきた街です。そのため、「織物の神」を祀るこの服織神社は、地域経済の繁栄を祈願する信仰の中心として、極めて重要な役割を果たしてきました。この産業に密着した機能的な信仰こそが、真清田神社が現代まで地域社会の中心であり続けた最大の理由と言えるでしょう。

歴史と文化遺産 戦災からの復興と舞楽神事
壮麗な昭和の復興建築
真清田神社は、かつて地域特有の尾張造りの社殿を有していましたが、昭和20年(1945年)の空襲により、殿舎一式が焼失するという甚大な被害を受けました。
しかし、戦後の地域の熱意と繊維産業の活況を背景に、迅速な復興が遂行されました。昭和32年(1957年)には本殿の遷座祭が斎行され、本殿、渡殿、拝殿などが再興。
この復興された本殿及び渡殿は、檜材を用いながらも装飾を抑え、優れた比例と荘厳な造形を達成している点が評価され、平成18年(2006年)8月3日に国の登録有形文化財に指定されています。本殿は前室付三間社流造、銅板葺の大型社殿であり、昭和中期の建築技術の粋を集めた文化的再構築の証と言えます。
尾張一宮七夕まつりと重要文化財
真清田神社の文化的な貢献として、二つの重要な要素があります。
- 尾張一宮七夕まつり: 毎年約130万人が訪れるこの大規模な祭典は、服織神社の織物の神に感謝し、機織工業の繁栄を願う祭りです。市、商工会議所、真清田神社が一体となって開催され、「御衣奉献行列」や「提灯まつり」などが行われます。
- 舞楽神事と重要文化財「舞楽面」: 当社には、木彫りの技術が最も発達した時期に製作された舞楽面が伝わっています。このうち12面が国の重要文化財に、7面が県文化財に指定され、現在も大切に保存されています。現在も毎年4月29日を舞楽神事の定日として、数々の演目が奉納されています。また、江戸時代に廃絶していた仁孝天皇の大嘗祭における久米舞(くめまい)の譜面が当社のえぼし箱から発見され、その復興の契機となったという逸話も、真清田神社の文化的貢献の深さを示しています。
参拝案内とアクセス情報

真清田神社は、一宮市の中心地という便利な立地にあり、公共交通機関、車でのアクセスともに容易です。
所在地・位置情報
| 項目 | 詳細 |
| 住所 | 〒491-0043 愛知県一宮市真清田1丁目2番1号 |
| 座標 | 北緯35度18分27.20秒 東経136度48分7.51秒 |
| Google Map | こちらから位置をご確認いただけます |
交通手段
| 区分 | 経路 | 所要時間 |
| 公共交通機関 | JR尾張一宮駅、名鉄一宮駅下車(東出口) | 徒歩約8分 |
| 車(高速道路) | 名神高速「尾張一宮」I.Cより | 約20分 |
| 車(高速道路) | 名古屋高速一宮線「一宮東」出口より | 約10分 |
| 車(高速道路) | 東海北陸自動車道「一宮西」I.Cより | 約10分 |
御祈祷・参拝時間
- 受付時間: AM 9:00~PM 4:00
参考文献・資料案内
真清田神社や尾張の歴史についてさらに深く学びたい方のために、一宮市立中央図書館などで参照可能な主要文献の一部を紹介します。
- 『延喜式神名帳編』
- 『皇学叢書 3』 物集高見/編 (1927年)
- 『国史大系 第26巻』 (1965年)
- 『尾張国延喜式内神名帳』
- 『名所図会編』
- 『尾張名所図会』 岡田啓/著 愛知県郷土資料刊行会 (1970年)
- 『事典・地誌』
- 『神道史大辞典』 吉川弘文館 (2004年)
- 『日本歴史地名大系 23 愛知県の地名』 平凡社 (1981年)
- 『角川日本地名大辞典 23 愛知県』 角川書店 (1989年)

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