和歌山県の山深くに、時が止まったかのような温泉街があります。それが、約1800年前に発見されたと伝わる「日本最古の湯」、湯の峰温泉です 。
ここは単なる温泉地ではありません。古くから熊野本宮大社へ参詣する人々が、聖地を訪れる前に身を清めた「湯垢離場(ゆごりば)」としての神聖な歴史を持っています 。
そして何より、この温泉地の中心には、世界で唯一「入浴できる世界遺産」として登録された「つぼ湯」が存在します 。
この記事では、湯の峰温泉の歴史的背景から、ハイライトである「つぼ湯」の具体的な入り方、周辺の史跡、そしてアクセス方法まで、あなたの旅を完璧にするための情報を詳しくご紹介します。
湯の峰温泉とは?1800年の歴史と蘇りの伝説
湯の峰温泉の発見は4世紀頃に遡るとされ、歴代の上皇たちも熊野詣の道中でこの湯に浸かり、旅の疲れを癒したと伝えられています 。
この地を語る上で欠かせないのが、説教節や歌舞伎で有名な「小栗判官(おぐりはんがん)伝説」です 。毒殺され、餓鬼阿弥という醜い姿で死の淵をさまよった小栗判官が、妻・照手姫の献身的な助けでこの湯の峰にたどり着き、湯に浸かることで奇跡的に蘇生し、全快したという物語です 。
この「蘇りの湯」という強力なイメージが、湯の峰温泉を単なる湯治場ではなく、信仰と奇跡の場所として人々の心に深く刻み込むことになりました 。
「つぼ湯」 世界遺産に浸かる神聖な体験
湯の峰温泉の象徴であり、旅の最大の目的となるのが「つぼ湯」です。湯の谷川のほとりに立つ素朴な小屋の中に、天然の岩をくり抜いた小さな湯船があります 。

神秘の「七色の湯」
「つぼ湯」は、「1日に7回湯の色が変わる」という神秘的な言い伝えで知られています 。ある時は透明に、ある時は乳白色に、またある時は青みがかって見えることも 。

これは、湯船の底の岩の割れ目から源泉が空気に触れずに直接湧き出し、空気に触れた瞬間に温泉成分が化学変化を起こすためと言われています 。まさに「生きている温泉」を五感で体験できる瞬間です。
【重要】つぼ湯の入り方(手順とルール)
「つぼ湯」は予約不可・完全先着順の30分交代制です 。以下の手順をしっかり確認しておきましょう。
- 受付へ: まず、温泉街の中心にある「湯の峰温泉公衆浴場」の番台(受付)へ向かいます 。
- 入浴券の購入: 受付横の券売機で入浴券を購入します。
- 料金: 大人800円、12歳未満400円 (※料金は変動する可能性があります)
- 番号札の受領: 券を番台に渡すと、番号が書かれた木札(番号札)が渡されます 。
- 待機: 自分の番号まで待ちます。週末や観光シーズンは数時間の待ち時間が発生することも珍しくありません 。
- 入浴: 自分の番がきたら、つぼ湯の小屋へ。中から鍵をかけて、30分間の神聖な時間をお楽しみください。
<知ってお得なポイント>
- つぼ湯の入浴券で、公衆浴場に無料で入浴できます。待ち時間に利用したり、つぼ湯の後に体を洗ったりするのに最適です。
- つぼ湯は非常に高温です(源泉92℃)。備え付けの水道から冷たい水を加えて、好みの湯加減に調整してください。
- 湯船は大人2~3人でいっぱいになる小ささです。
- 源泉の神聖さを保つため、石鹸やシャンプーの使用は禁止されています。
温泉街の楽しみ方「湯筒」と公衆浴場
つぼ湯以外にも、湯の峰温泉には魅力的なスポットがあります。

名物「湯筒(ゆづつ)」で温泉卵づくり
公衆浴場のすぐ前、川沿いに「湯筒」と呼ばれる場所があります 。ここは摂氏90度の源泉がゴポゴポと湧き出ています。
近くの売店で生卵(網袋入り)や野菜を購入し、湯筒に浸けてみましょう。卵なら10分~15分ほどで、硫黄の香りがほんのり漂う、絶品の温泉卵が完成します。湯上がりに味わう茹でたての温泉卵は格別です。
湯の峰温泉公衆浴場
2022年4月にリニューアルされた公衆浴場もぜひ利用したい施設です 。内部には、温度の異なる浴槽がある「一般湯」(シャンプー・ボディソープ完備)と、より温泉成分が濃いとされる「くすり湯」があります 。
- 泉質: 含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩泉 (硫黄泉と重曹泉のブレンド )
- 効能: リウマチ性疾患、神経痛、皮膚病(アトピー性皮膚炎など)、糖尿病、胃腸病などに効能があるとされています 。
湯の峰の聖地巡り
小さな温泉街ですが、熊野信仰の歴史を物語る史跡が点在しています 。

- 湯峯王子(ゆのみねおうじ)熊野古道沿いに点在する「熊野九十九王子」の一つで、温泉街の中にひっそりと佇んでいます 。巡礼者たちが道中の安全を祈願した場所です。
- 東光寺(とうこうじ) 温泉の守り本尊である薬師如来を祀る寺院です 。小栗判官が全快した際に、その感謝のしるしとして自らの像を刻んで奉納したという伝説も残っています。
- 一遍上人名号碑(いっぺんしょうにんみょうごうひ) 鎌倉時代の僧・一遍上人が、熊野本宮大社での修行の末に霊験を得て、その爪で岩に「南無阿弥陀仏」の名号を刻んだと伝わる巨大な岩です 。
- ユノミネシダ自生地 公衆浴場の裏手には、シダ植物「ユノミネシダ」が日本で初めて発見された場所があり、国の天然記念物に指定されています 。
湯の峰温泉へのアクセスガイド(車・公共交通機関)
湯の峰温泉は山間部にあるため、アクセスには余裕を持った計画が必要です。
- 湯の峰温泉 Googleマップ(中心地)
公共交通機関でのアクセス
- 大阪方面から
- JR特急「くろしお」で「紀伊田辺駅」へ(新大阪から約2時間10分)。
- 紀伊田辺駅から「龍神バス」または「明光バス」(本宮大社方面行き)に乗車し、「湯の峰温泉」バス停で下車(約100分~120分)。
- 名古屋方面から
- JR特急「ワイドビュー南紀」で「新宮駅」へ(名古屋から約3時間30分)。
- 新宮駅から「熊野御坊南海バス」または「奈良交通バス」(本宮大社・五條方面行き)に乗車し、「湯の峰温泉」バス停で下車(約70分)。
※バスの本数は非常に限られています。必ず事前に時刻表をご確認ください。
自動車でのアクセス
- 大阪方面から(約3時間30分)
- 阪和自動車道・紀勢自動車道 を利用し「上富田IC」で降ります 。
- 国道311号線(中辺路)を経由して湯の峰温泉へ(上富田ICから約70~75分)。
- 名古屋方面から(約4時間30分)
- 東名阪自動車道・紀勢自動車道 を利用し「熊野大泊IC」で降ります 。
- 国道42号線で新宮市へ向かい、その後 国道168号線 を北上して湯の峰温泉へ(熊野大泊ICから約85分)。
駐車場
温泉街には無料駐車場(46台)が整備されています。日帰り入浴でも安心して利用できます。
関連書籍・ガイドブック
湯の峰温泉や熊野古道の歴史をより深く知るために、これらの書籍もおすすめです。
- 『ちゃんと歩ける熊野古道 中辺路・伊勢路』(春野 草結 著) 熊野古道をしっかり歩きたい人向けのハンディガイド。中辺路ルート(大日越え含む)や伊勢路の詳細な地図と情報が満載です。
- 『小栗判官と照手姫 – 愛の奇蹟 -』(白石 征 著) 湯の峰温泉の「蘇り伝説」の源流である、小栗判官と照手姫の物語を深く知るための一冊。伝説の背景を知ることで、旅がより一層味わい深くなります。




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