住吉大社の神々を徹底解説!神話から源氏物語、武士の信仰まで

大阪市住吉区に鎮座する住吉大社。地元では「すみよっさん」の愛称で親しまれていますが、この神社が日本の歴史においてどれほど重要な役割を果たしてきたかをご存知でしょうか。全国に約2,300社ある住吉神社の総本社であり 、その歴史は神話の時代にまで遡ります。  

今回は、歴史を愛する皆さまへ、住吉大社の核心である「御祭神」に焦点を当て、その誕生の物語から、国家の命運を左右した伝説、そして文化や人々の暮らしに与えた深い影響までを、徹底的に掘り下げていきます。

住吉大社に祀られる四柱の神々とは?

住吉大社の御祭神は、三柱の男神と一柱の女神、合わせて四柱の神々です 。まず、その神々と、彼らが祀られる特異な社殿配置を見ていきましょう。  

海より生まれし三柱の男神「住吉三神」

住吉信仰の根幹をなすのが、「住吉三神(すみよしさんじん)」と総称される三柱の男神です。

  • 第一本宮:底筒男命(そこつつのおのみこと)
  • 第二本宮:中筒男命(なかつつのおのみこと)
  • 第三本宮:表筒男命(うわつつのおのみこと)

この三神は総じて「住吉大神(すみよしおおかみ)」と称されます 。その名は、後述する誕生神話において、神々が出現した海の深さ(底・中・表)に由来しており、彼らが根源的に「海」の神であることを示しています。  

伝説の皇后「神功皇后」

そして、第四本宮に祀られているのが、息長足姫命(おきながたらしひめのみこと)、すなわち諡号(しごう)である神功皇后(じんぐうこうごう)です 。第14代仲哀天皇の皇后であった彼女が、なぜ原初的な海の神々と共に祀られているのか。これが、住吉大社と国家の歴史を結びつける重要な鍵となります。  

船団を模した聖なる社殿配置

住吉大社の四つの本宮は、非常にユニークな配置で建てられています。第一、第二、第三本宮が奥から手前へ一直線に並び、第四本宮は第三本宮の横に並んでいます 。この配置は「大海原をゆく船団」にたとえられ、海上守護という神格を建築様式で見事に表現しているのです 。  

さらに興味深いのは、四つの本宮すべてが西、つまり大阪湾の方角を向いていること 。これは、かつて大陸との玄関口であった海路を永遠に見守るという、神々の強い意志の表れと言えるでしょう。  

四柱の御祭神と各本宮

本宮御祭神読み通称・神格
第一本宮底筒男命そこつつのおのみこと住吉三神
第二本宮中筒男命なかつつのおのみこと住吉三神
第三本宮表筒男命うわつつのおのみこと住吉三神
第四本宮息長足姫命おきながたらしひめのみこと神功皇后

『古事記』に記された創生神話 禊祓から生まれた浄化の神

住吉三神の神格を理解するには、日本最古の歴史書『古事記』に記された彼らの誕生シーンを知る必要があります。

物語は、創造神イザナギノミコトが、亡き妻イザナミノミコトを追って訪れた死者の国「黄泉国(よみのくに)」から命からがら逃げ帰るところから始まります 。黄泉国の穢(けが)れに満ちたイザナギは、その身を清めるため、「竺紫(つくし)の日向(ひむか)の橘(たちばな)の小門(おど)の阿波岐原(あはぎはら)」禊祓(みそぎはらえ)を行います 。  

この、死の穢れを洗い流すという究極の浄化儀式の最中、イザナギが海中で身を清める過程で、住吉三神は誕生しました 。  

  • 海の底で身を滌(すす)いだ時、底筒男命が生まれる。
  • 海の中ほどで滌いだ時、中筒男命が生まれる。
  • 海の表面で滌いだ時、表筒男命が生まれる。

この誕生の経緯から、住吉三神の最も根源的な神徳は、神道における浄化の概念である「祓(はらえ)」とされています 。住吉大社の最も重要な祭りである住吉祭が、単に「おはらい」と呼ばれるのはこのためです 。  

また、海から生まれたことから航海の神としての性格も持ち合わせます 。「筒(つつ)」という名が古代の航海の指標であった星を意味するという説もあり 、誕生の瞬間から、人々を海上で導く存在として運命づけられていたのかもしれません。  

国家の守護神へ 神功皇后と三韓征伐の伝説

原初的な自然神であった住吉三神が、いかにして国家の守護神という重要な地位を確立したのか。その答えは、『日本書紀』に記された神功皇后の伝説にあります。

神功皇后が夫の仲哀天皇と共に九州の熊襲(くまそ)討伐にあたっていた際、彼女に神がかりの状態で神託が下ります 。それは住吉三神からの「熊襲ではなく、海を渡り宝の国・新羅(しらぎ)を攻めよ」というお告げでした 。しかし、仲哀天皇がこの神託を疑ったため、神の怒りに触れて急死してしまいます 。  

夫を失いながらも、身重の体で神託に従い海を渡った神功皇后。その航海を守護し、戦わずして新羅を降伏させるという奇跡的な勝利をもたらしたのが、住吉三神でした 。この物語により、住吉三神は国家の軍事行動を勝利に導く、強力な海上守護神・軍神としての神格を不動のものとしたのです。

そして凱旋の途中、摂津国の務古水門(むこのみなと)で船が進まなくなった皇后は、再び神託を受けます。それは、住吉三神がこの地、「大津渟中倉之長峡(おおつのぬなくらのながお)」に祀られることを望んでいるというものでした 。こうして約1800年前、神々の自らの意志によって住吉大社は創建されたのです 。  

時代を超えて広がる多彩なご利益

住吉大神への信仰は、時代と共にその広がりを見せていきます。

  • 航海安全の神として: 奈良時代には遣唐使が渡航の安全を祈願し 、江戸時代には北前船などの海運業者が篤く信仰しました。境内に立ち並ぶ約600基もの石燈籠は、その多くが海運業者から奉納されたもので、当時の信仰の厚さを物語っています 。  
  • 和歌の神として: 神社周辺の「住之江(すみのえ)」の地が、白砂青松の景勝地として多くの歌人に愛され、『万葉集』や『古今和歌集』にも詠まれたことから、和歌の神としても崇敬されるようになりました 。  
  • 産業・武芸の神として: 農耕の技術を伝えた伝説から産業の神 、神功皇后の武威から弓の神 、古く境内で行われた相撲会(すもうえ)から相撲の神としても信仰されています 。  

国宝「住吉造」 建築が物語る神々の神格

住吉大社の四棟の本殿は、「住吉造(すみよしづくり)」と呼ばれる、神社建築史上最古の様式の一つで建てられており、国宝に指定されています 。  

その特徴は、仏教建築の影響を受ける以前の、日本の古式ゆかしい様式を今に伝えている点です。

  • 屋根: 反りのない直線的な切妻造(きりづまづくり)で、檜皮葺(ひわだぶき) 。  
  • 構造: 内部は外陣(げじん)と内陣(ないじん)の二間に分かれ、回廊がない 。  
  • 色彩: 柱は朱塗り、壁は白(胡粉塗り)という鮮やかなコントラスト 。  

この様式は、天皇即位の儀式「大嘗祭(だいじょうさい)」で建てられる大嘗宮の構造と類似点が指摘されており 、住吉信仰と皇室祭祀との根源的なつながりを示唆しています。  

文学と歴史に刻まれた住吉の神威

住吉信仰は、日本の文化史にも大きな足跡を残しています。

『源氏物語』と住吉大神

平安文学の最高峰『源氏物語』では、住吉大神が物語の重要な鍵を握る存在として登場します。須磨に流された主人公・光源氏が嵐の中で救いを求めて祈ったのが住吉の神でした 。神は夢のお告げで源氏を明石へと導き、そこで出会った明石の君との間に生まれた娘は、後に皇后となります。これは、住吉大神を篤く信仰していた明石一族の悲願の成就でもありました 。帰京後、源氏が壮麗な行列を率いて感謝の参詣(住吉詣)を行う場面は圧巻で、平安貴族たちの深い信仰心を今に伝えています 。  

鎌倉武士たちの崇敬

武神としての側面は、鎌倉時代の武士たちからも篤い信仰を集めました。『吾妻鏡』には、源頼朝が代参を送って幣帛や馬を奉納した記録が残っています 。特に有名なのが、1185年の平家追討祈願の際、本殿から神の使いである鏑矢(かぶらや)が西へ飛び去り、屋島の戦いでの源氏の勝利を予兆したという逸話です 。源義経や源実朝といった名だたる武将たちも崇敬の念を寄せており、住吉の神が武家の世においても重要な存在であったことがうかがえます 。  

二つの霊性 和魂(にぎみたま)と荒魂(あらみたま)

神道には、一つの神が穏やかな側面と荒々しい側面を持つという「一霊四魂」の考え方があります。住吉大神はその典型で、祀られる場所によってその側面が異なります。

  • 住吉大社(大阪): 神の穏やかで恵みを与える側面である和魂(にぎみたま)を祀る 。  
  • 住吉神社(山口県下関市): 神の荒々しく力強い側面である荒魂(あらみたま)を祀る 。  

これは神功皇后の伝説と見事に一致します。遠征の出発点であり、武威が発揮された下関に「荒魂」が、そして平穏に凱旋し、鎮座した大阪に「和魂」が祀られているのです。

おわりに

住吉大社の御祭神の物語は、日本の成り立ちそのものを映し出す壮大な叙事詩です。神道の根源的な浄化の思想から生まれ、皇室の物語と結びつき、航海、和歌、武芸、そして文学の世界まで、あらゆる時代の人々の祈りとともにありました。次にあなたが住吉大社を訪れる際には、ぜひ本宮に立つ神々の背後にある、幾重にも重なった歴史の物語に思いを馳せてみてください。


住吉大社へのアクセス

公共交通機関をご利用の場合

  • 南海電鉄
    • 南海本線「住吉大社駅」下車、東へ徒歩約3分
    • 南海高野線「住吉東駅」下車、西へ徒歩約5分
  • 阪堺電気軌道(路面電車)
    • 阪堺線「住吉鳥居前駅」下車、徒歩すぐ

お車をご利用の場合

  • 高速道路からのアクセス
    • 阪神高速15号堺線「玉出」出口から約12分  
    • 阪神高速15号堺線「住之江」出口から約9分  
  • 駐車場について
    • 境内に参拝者専用の「南駐車場」「北駐車場」があります(合計約400台) 。  
    • 利用時間:午前6時~午後10時  
    • ご注意: 正月や住吉祭の期間中は交通規制のため、駐車場は利用できません 。七五三シーズンの週末なども大変混雑するため、公共交通機関の利用や、周辺のコインパーキング、予約制駐車場の利用をおすすめします 。  

Googleマップ

住所: 〒558-0045 大阪府大阪市住吉区住吉2-9-89  

https://www.google.com/maps/search/?api=1&query=大阪府大阪市住吉区住吉2-9-89


もっと深く知るための参考文献

住吉大社の神話や歴史にご興味を持たれた方へ、さらに学びを深めるための書籍をご紹介します。

1. 原典に触れる(現代語訳)

神話の元となった『古事記』『日本書紀』を読んでみましょう。読みやすい現代語訳が多数出版されています。

2. 住吉信仰を専門的に学ぶ

より専門的な視点から住吉信仰を探求したい方向けの書籍です。

  • 『すみよっさんの境内と石燈籠 (住吉大社叢書)』住吉大社 (編集)
  • 『住吉と宗像の神―海神の軌跡』上田 正昭 (編集)
    • 住吉の神と、同じく海の神である宗像の神を比較し、海人族の信仰から国家神への変遷を考古学・歴史学の視点から解き明かす一冊です 。  
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