【白山神社】首塚と温羅伝説の真実。「鬼の首」が眠る場所(岡山市北区首部)

岡山県
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誰もが知る「桃太郎」の物語。鬼退治をして、めでたしめでたし……と思っていませんか? 実は、吉備の国には「物語の続き」が存在します。

吉備津彦命(桃太郎のモデル)に敗れ、首をはねられた鬼神・温羅(うら)。 その「首」はどうなったのか?

今回は、その首が晒され、夜な夜な唸り声をあげたと伝わる場所、岡山市北区首部(こうべ)の「白山神社(はくさんじんじゃ)」をご紹介します。ここには、教科書には載らない「敗者の歴史」と、意外な「神としての顔」が眠っていました。

地名に残る戦慄 「首部(こうべ)」という場所

JR吉備線・備前三門駅から歩くこと約30分。岡山市街の喧騒を離れた静かな場所に、その神社はあります。 鎮座地の住所は「岡山市北区首部(こうべ)」。

この恐ろしい地名の由来こそ、まさに温羅の首(こうべ)です。 伝説によれば、吉備津彦命との激戦の末に捕らえられた温羅は処刑され、その首はこの地に串刺しにして晒されました

白山神社の境内には、今も「首塚」と呼ばれる高さ約2メートルの盛り土が残されています。 一見すると静かな塚ですが、ここはかつて、吉備の人々を震撼させた「怪異」の現場でした。

鳴り止まない怨嗟の声 吉備津神社「鳴釜神事」の前日譚

白山神社の伝承で最も恐ろしいのは、「死してなお、首が死ななかった」という点です。

晒し首にされた温羅は、目を見開き、夜になると凄まじい声で唸り続けたといいます。 その声は近隣の村人を震え上がらせ、何年経っても止むことはありませんでした。

吉備地方の有名な神事といえば、吉備津神社の「鳴釜神事(釜の鳴る音で吉凶を占う)」ですが、実はこの神事の起源はここにあります。 唸り続ける首に困り果てた吉備津彦命が、夢のお告げに従って首を吉備津神社の釜の下に埋葬したことで、ようやく温羅の魂は鎮まったのです。

つまり、白山神社は「鳴釜神事が生まれるきっかけとなった、怨念の発生源」とも言える、重要な聖地なのです。

鬼か、神か? 地元だけが知る「温羅」の素顔

中央(大和朝廷)の歴史では「恐ろしい鬼」として描かれる温羅。 しかし、ここ首部の地で語り継がれる温羅の姿は、全く異なります。

地元にはこんな伝承が残っています。

「やがて吉備の国は豊かな米どころとなり、温羅は農民から大変感謝され、米の神として祀られました」

製鉄技術を持った渡来人とも言われる温羅は、吉備に鉄製の農具をもたらし、農業生産を飛躍的に向上させた「英雄」だったのかもしれません。 白山神社が「五穀豊穣」や「商売繁盛」の神として信仰されているのは、温羅がもたらした繁栄の記憶が、祟りの恐怖を上書きした結果なのでしょう。

また、面白いご利益として「歯痛平癒」があります。 「首(頭部)」が祀られている場所だからこそ、首から上の病気に効く。 かつての怨霊は、今では地域の人々の痛みに寄り添う優しい神様になっています。

怨霊を怨霊で封じる? 謎の「レイライン」

最後に、歴史ミステリー好きにはたまらない「配置」の話をしましょう。

白山神社を調査すると、ある興味深い事実が浮かび上がります。 この神社を中心として、北東(表鬼門)と南西(裏鬼門)の方角に、それぞれ「天神様(菅原道真)」を祀る神社が配置され、一直線に並んでいるのです。

  • 北東: 津高地区の天神社
  • 中心: 白山神社(温羅の首)
  • 南西: 東楢津地区の天満宮

菅原道真もまた、かつては日本三大怨霊と恐れられた存在。 強力な地霊である温羅(鬼)を制御するために、同じく強力な霊力を持つ天神様を「鬼門封じ」として配置したのでしょうか?

ここには、目に見えない「呪術的な結界」が張り巡らされていたのかもしれません。

敗者への鎮魂の旅へ

鬼ノ城の雄大な景色も素晴らしいですが、物語の結末を見届けるために、ぜひこの「首部」の地も訪れてみてください。

そこにあるのは、おどろおどろしい恐怖だけではありません。 異国の地で散った英雄への敬意と、それを静かに守り続けてきた里の人々の温かい想いです。

温羅の首はもう唸り声を上げることはありませんが、その塚は今も吉備の豊かな実りを見守っています。


【アクセス情報】 白山神社(はくさんじんじゃ)

  • 住所:岡山県岡山市北区首部236
  • グーグルマップの位置情報
  • アクセス:JR吉備線(桃太郎線)「備前三門駅」より徒歩約30分~40分
  • ※住宅地の中にあり、道が狭い箇所もあるため、公共交通機関と徒歩での散策をおすすめします。
吉備の桃太郎伝説

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