【賀茂神社(賀茂八幡宮)】海から上陸した雷神?賀茂神社「高鴨神」漂着伝説と漁師の絆

高知県
この記事は約3分で読めます。

高知県黒潮町にある賀茂神社(賀茂八幡宮)には、海辺の町ならではの神様の上陸作戦とも言える伝説が残されています。

今回は、海からやってきた神という、不思議な伝承の謎に迫ります。


釣り上げられた神様 伊田浦の伝説

賀茂神社が鎮座するのは、美しい松林が広がる入野の地。その神様の「出現場所」は、ここから少し離れた「伊田(いだ)」という海岸でした。

漁師が釣り上げた「重たい何か」

昔々、伊田浦で一人の漁師が釣りをしていました。 ある時、釣り竿にこれまで経験したことのないようなズシリとした重みが伝わります。 期待に胸を膨らませて懸命に引き上げると、水面に姿を現したのは魚ではありませんでした。

それは、尊い「御神体」だったのです。

海から来た「高鴨神」

釣り上げられたのは、高鴨神。 一般的に、賀茂の神様(アジスキタカヒコネやワケイカヅチ)は、雷神であり、農耕の神様です。 本来であれば山や空に縁が深いはずの神様が、なぜかドンブラコと海を渡り、ここ土佐の海岸に「漂着」されたのです。

この伝説は、日本古来の「寄り神」信仰を色濃く反映しています。

なぜ海から来たのか?

ここで一つの疑問が浮かびます。 「なぜ、山や雷の神様である賀茂神が、海から上陸したのか?」

歴史好きの視点で考察すると、ここには2つの面白い可能性が見えてきます。

続日本紀が伝える葛城の土佐流罪

『続日本紀』764年条に、雄略天皇が葛城山で狩りをしていたときのこと。一人の老人が現れ、ことごとく天皇と獲物を競い合いました。 その不遜な態度に激怒した天皇は、その老人(神の化身)を土佐国へ流罪にしてしまった。という記述がみられます。『古事記』にも同様の物語が記述されており、その神は一言主神とされています。

また、『釈日本紀』所引『土佐国風土記』逸文には土佐神社の祭神は一言主神であると記述しています。現在の土佐神社の祭神も一言主神味鋤高彦根神です。

これらの伝説の舞台である葛城の地には、全国の加茂社の「元宮」・「総本宮」である高鴨神社が鎮座しており、高鴨神社には、土佐に流されていた高鴨神を再び葛城の地に迎えたという伝承が残されています。

土佐に流された葛城の神の伝承と、土佐の地に伝わる海からやってきた高鴨神の伝承は同一の話と考えていいでしょう。

今も生き続ける「漁師との契約」

この「釣り上げ伝説」は、単なる昔話として終わっているわけではありません。 驚くべきことに、数百年経った令和の今も、神社の祭礼における「絶対的なルール」として生き続けています。

「伊田の漁師」を待つ祭り

賀茂神社の祭礼では、「伊田地区の漁師衆の参加を待ってからでないと、神事を始めてはならない」という習わしがあるのです。

神様を最初に見つけ出し、海から陸へと導いたのは伊田の漁師たち。 だからこそ、彼らこそがこの神社の「第一の功労者」であり、彼らが到着しない限り、神様は動かない(お祭りには出ない)というわけです。

地域社会の中で、特定の集落や職業集団が特別な特権・役割を持ち続ける。 これは、伝説が歴史的事実に基づいていることを示す、何よりの証拠と言えるでしょう。

神様が上陸した海を感じる

賀茂神社を訪れた際は、ぜひその背景にある「海」にも思いを馳せてみてください。

社殿の奥に祀られている神様は、かつて潮風に吹かれ、波に揺られてこの地にたどり着きました。 境内の静寂な森の中に立ち、遠くに聞こえる太平洋の波音に耳を澄ませば、漁師が神様を釣り上げた瞬間の驚きと歓喜が、時を超えて伝わってくるかもしれません。


アクセス方法

  • 名称: 賀茂神社(高知県黒潮町)
  • グーグルマップの位置情報
    • アクセス
    • 公共交通機関:土佐くろしお鉄道「土佐入野駅」下車、徒歩約15分。
    • :高知市方面から国道56号線を西へ。道の駅「ビオスおおがた」の近く。
    • 駐車場:あり(参拝者用)

コメント

タイトルとURLをコピーしました